2018年08月13日

【MAU】西洋美術史U【第2課題】

西洋美術史U 第2課題
「1780年から1980年までの間に制作された西洋の美術作品を一点選び、実際に鑑賞した上で、その造形的な特質について具体的に考察しなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。


選択した作品「モネの「並木道(サン・シメオン農場への道)」」

 今回選んだ作品はクロード・モネの「並木道(サン・シメオン農場への道)」である。この作品は1864年、モネが23歳の時にセーヌ河口の港町オンフルールからトルーヴィルへ向かう街道にあるサン=シメオン農場付近を描いた風景画作品である。国立西洋美術館に展示されている。以下に実際に見て気付いた点、特徴をまとめる。

 本作「並木道(サン・シメオン農場への道)」は縦81.6cm、横46.4cmの縦長のカンヴァスに描かれた油絵で、木々に囲まれた、奥に向かってカーブする田舎の道が描かれている。基本的には木の陰がかかり暗い画面であり、奥のひらけた空と木々の間から洩れた光があたっている部分以外は黒、濃いグリーン、ブラウンなどを基調とした暗い色で影の深さが描き込まれている。モネの作品のなかでは、比較的影の演出が強い絵のように思われる。木々の間から差し込む光には情緒があり、感動的な明るさを覚える作品である。複雑な木々の緑色の変化も丁寧に追われ描かれ、強く濃い葉のイメージを起こさせる。先の道がパッと明るいことと、奥に見える空が晴れ晴れと描かれている様子が、これから何か良いことが待ち受けているような予感を与える。道にかかる影を追求することで夏の強い光を相対的に表現している。一見この絵は暗く重いが、そのために光が引き立ち、幻想的で美しい印象に仕上がっている。
 細部に注目する。やわらかそうな道の土は遠目に見る印象と違って荒々しいタッチで描かれており、横に走る筆のあとがそのまま残っている。馬車が歩いたと思われる跡は細い筆で描かれ、一見単純のように見えるが複雑な色の変化をしている。木の葉の表現は筆先をぽんぽんと乗せる方法で表現されていると思われ、暗い色を先に置き、その上から明るい緑や黄色、白を乗せている。他のモネの絵では比較的厚塗り、盛り上げが多くされるが、この絵ではほとんどされていないことも特徴として上げられる。画面も乾燥した仕上げである。
全体的なカラーとしては黄味がかったブラウンが主体であり、葉の表現にも茶色が使われている。多くの草や木はいずれも彩度の低い暗い色で描かれ、画面で一番色があざやかな光のあたっている奥の草の部分は、パーマネントグリーンやミントグリーンの絵具を混色させることなくそのまま使っていることがわかる。色変化に乏しい寒々しい色が基本であるからこそ、余計に色の明るい所や奥の光、青空が引き立っている。また、空の色は上部と中央部で明らかに色のあざやかさが変化していることから、こちら側は天気が悪いのかもしれない。このような演出は、縦構図のキャンヴァスならではである。
 複雑に光の印象が追われ描かれている道の部分に比べ、上部の空は比較的明度変化に乏しく単調に描かれていることも特徴で、大きく見て、絵の上部は木も空もなんとなくもやっとしているが、下部はまるでバロック絵画のような深く強い明暗がされている。この絵で最も絵具が厚く塗られている部分も下部左手の柵の白い部分であり、はっきりと明暗が分けられている。また、柵の下部分には純粋な黒が使われており、より陰影を大胆に表現している。不思議な異なる表現が上下で分けて一つの画面に存在しているおもしろさがある。
 また、この作品は全体として背景、暗い色、中間、明るい色の順番で色を塗り重ねて描かれているのだが、それが適用されていない部分が存在する。左上の木は、左右の木と比べ葉が重なり合うことで生まれる奥行きがあまりなく、木そのものがスカスカしているためか、木を着色したあとに葉の間の隙間をつくるため上から空の色を乗せ直している。また、画面左上の三角の空部分は奇妙なことにのっぺりとした塗りがされている。空でこの部分だけが、木を描いたあとに上から上塗りされているのである。質感も他の空の部分に比べべったりとしており、よく見ると色も異なる。後から何かを塗りつぶしたように見える。建物の塗りのような無機質な質感が、少々目立っており、不思議な印象を与える。

 モネの作品はどの作品も光を丁寧に追い、まるで実際にそこにいるような感覚を引き起こす。この「並木道」は光そのものではなく、影を丁寧に描写することで、光を引き立たせ、神々しいまでの光の明るさ・美しさを表現した。荒々しい筆致でありながら、吸い込まれるようなリアルさ・空気感がこの作品の魅力である。

<参考文献>
「国立西洋美術館名作選」国立西洋美術館学芸課 国立西洋美術館 1989




posted by 水乃みのる at 22:38| 西洋美術史U(ムサビ通信)

2018年08月12日

【MAU】西洋美術史U【課題1】

西洋美術史U 第1課題
「ルネサンス、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義のうち一つを選び、その芸術的特質と歴史的背景について論じなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。


テーマ「ルネサンス」

 ルネサンス美術はジョットが活躍する「早期ルネサンス」、ドナテッロ、マザッチョ、ブルネレスキらが活躍する「初期ルネサンス」、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロらが活躍する「盛期ルネサンス」にわけることができるとされる。今回はそのうち、盛期ルネサンスに活躍した三人に注目する。

 レオナルドらが生きた時代では絵画や彫刻はまだ、学芸の分野とは見なされていなかった。画家や彫刻家は装飾品を制作する手仕事の職人にすぎず、社会的地位も高くはなかったという。それは哲学や詩学、数学などに比べ、芸術は知的・理論的基礎付けのない非精神的な労働だと見なされていたためである。しかしレオナルド・ダ・ヴィンチにとって絵画とは、当時の諸芸術に劣るどころかそれらに勝る最も高度な知的営みだった。絵画には基本として数学や物理学、化学や自然学など様々な豊富な知識が必要と考えたためである。
 「モナ・リザ」はレオナルド・ダ・ヴィンチの描いた世界で最も有名な作品である。スケールの大きな画面構成、立体描写の繊細さ、だまし絵めいた雰囲気など、さまざまな点において斬新であったこの作品は、現在に至るまで人々を魅了し続け、研究の対象となってきた。弟子をはじめ、多くの画家によって模写された。教皇や貴族など、地位の高くない人物の肖像画が描かれるようになったのはこの時代からであり、本作のモデルもフィレンツェの名士、ジョコンダの妻であるというのが定説である。この絵に使われたスフマート(深みやボリューム、形状の認識を造り出すため、色彩の透明な層を上塗りする絵画の技法)という技法はレオナルドが作りだしたものである。レオナルドはルネサンス期を代表する博学者であり、万能の才に恵まれ、あらゆるジャンルの研究をした。芸術では絵画を第一のものと位置づけ、アルベルティの絵画論を継承して人物の身振りや感情表現を研究した。レオナルドは森羅万象を解き明かそうと試み、それを絵画の世界で表現しようとする、科学者の視点を持った全く新しい芸術家であった。
 ミケランジェロはルネサンス期を代表する彫刻家であり、また画家、建築家、詩人の側面も持つ。1490年から1564年頃までほぼ1世紀近く制作を続けた。それは宗教改革の中であり、中世的なキリスト教信仰が決定的に崩壊した時期でもある。代表作は「ダビデ像」である。人間の力強さや美しさの象徴ともみなされる作品であり、芸術の歴史における最も有名な作品のひとつと言える。彼はメディチ家の古代彫刻コレクションを見て学んだとされ、感情がこもり、たくましい肉体をもったヘレニズム彫刻に感銘を受けたという。彼の作品は人間の持つ力強さが神々しく、美しく表現されており、その美の在り方はダビデ像の他、システィーナ礼拝堂の天井画「天地創造」などにも見ることができる。彼の専門は本来彫刻であるが、様々な分野で優れた芸術作品を残したその多才さから、レオナルド・ダ・ヴィンチと同じくルネサンス期の典型的な「万能人」と呼ばれることもある。ミケランジェロの作品に見られる情熱的で独特の作風は後続の芸術家たちの模範となり、盛期ルネサンスの次の西洋芸術運動であるマニエリスムとなって結実していった。
 ラファエロは、ルネサンスを代表する画家、建築家である。ラファエロの作品はその明確さと分かりやすい構成とともに、雄大な人間性を謳う新プラトン主義を美術作品に昇華したとして高く評価されている。前記二人の天才達の技を目の当たりにしたラファエロは、レオナルドからは絵の構成の重要性を、ミケランジェロからは人体の構造をよく理解することの重要性を学んだという。彼の代表作は一連の聖母子像である。あたたかく慈愛に満ちたやわらかな描写がされている。彼は「聖母子の画家」と呼ばれるほど、このテーマの作品の人気が高く、多くの注文が殺到したという。師のペルジーノ風の優美な美しい女性像の表現に加え、レオナルドから影響を受けた彼はレオナルドのピラミッド型の構図と人物の内面描写を自らの絵に取り入れた。作品自体の影響力こそミケランジェロに及ばなかったものの、良いところだけを集めたような彼の古典主義的理想美は、後世の画家たちに長く手本とされた。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロは三大巨匠とも呼ばれ、ルネサンス美術だけに留まらず、西洋美術の代表的な芸術家とされる。彼らが活躍した期間は30年程度であるが、彼らの作品はルネサンスの規範だった古代と自然さえ凌駕し、彼らの芸術世界はこれ以上ないほど完成されたものであった。彼らの美意識は今日に至るまで、後の美術界に多大な影響を与え続けている。

<参考文献>
「イラストで読むルネサンスの巨匠たち」杉全美帆子 河出書房新社 2010
「西洋美術の歴史」H・W・ジャンソン、アンソニー・F・ジャンソン 創元社 2001
「鑑賞のための西洋美術史入門」早坂優子 視覚デザイン研究所 2006
「西洋美術史」北澤洋子 武蔵野美術大学出版局 2006
「ミケランジェロ」ルッツ・ホイジンガ― 東京書籍株式会社 1996
「レオナルド・ダヴィンチ展」レオナルド・ダ・ヴィンチ展実行委員会 2005


【オススメの参考図書】


イラストで読む ルネサンスの巨匠たち


ルネサンスをテーマにレポートを書く場合に限定されますが、良い本なので紹介します。
レオナルドやミケランジェロといった有名芸術家が小エピソードなどと共にコミカルなイラストで紹介されている書籍です。
かなり軽い読み物なのでこれ一冊でレポートを書くのは不可能ですが、時代の雰囲気や大雑把な人間関係などが把握できるのでルネサンス期の勉強の導入書としてオススメです。






posted by 水乃みのる at 13:00| 西洋美術史U(ムサビ通信)