2018年08月19日

【MAU】美術の歴史と鑑賞【課題2】

美術の歴史と鑑賞 第2課題
「中学校美術科の教科書への掲載を想定した鑑賞テーマを設定し、そのテーマで鑑賞する具体的な作品を4点から6点選びなさい。また、設定した鑑賞テーマをわかりやすく解説する文章を作成するとともに、その鑑賞の意義について論じなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。


1.鑑賞テーマ「世界の有名彫刻の鑑賞」

2.鑑賞作品とその基本データ

(1)王妃ネフェルティティ胸像
作者:トトメス
制作年:紀元前 1365年
技法材料:石灰岩
サイズ:48cm
ベルリンの国立博物館所蔵

(2)ミロ島のヴィーナス
作者:アンティオキアのアレクサンドロス
制作年:紀元前100年頃
技法材料:大理石
サイズ:202cm
ルーヴル美術館所蔵

(3)弥勒菩薩半跏像(宝冠弥勒)
作者:不明
制作年:7世紀頃
技法材料:アカマツ材
サイズ:137.5cm
広隆寺所蔵

(4)ダビデ像
作者:ミケランジェロ・ブオナローティ
制作年:1501-1504年
技法材料:大理石
サイズ:434cm
アカデミア美術館所蔵

(5)考える人
作者:オーギュスト・ロダン
制作年:1881年
技法材料:ブロンズ
サイズ:715×400×580mm
ロダン美術館所蔵

3.鑑賞テーマの解説
 これら5つの彫刻は、世界的に有名な人物彫刻である。人物彫刻は人類の歴史と深い関わりがあり、太古の昔から継続して作品が生み出されている美術ジャンルである。その営みは現代まで続き、時には過去の作品を参考にしたり、摸刻することで彫刻家たちは腕を高めてきた。長い間愛され、有名彫刻として名高いこれら5つの彫刻だが、その素材・技法は全くばらばらであり、それぞれの時代の特色がうかがわれる。それぞれの彫刻にはどんな特徴が見られるか、また、共通点と違いはなにか、以下の説明文を参考に鑑賞してみよう。

「王妃ネフェルティティ胸像」
この胸像は古代エジプトの芸術作品のうちで最も多く模倣された作品の一つである。エジプト新王国時代の第18王朝のファラオだったアメンホテプ4世の正妃ネフェルティティをモデルとした彫刻である。顔面の左右の配置は完全に対称であり、今から約3000年前という時代からこのようなリアルな彫像が作られていたことに驚かされる。

「ミロ島のヴィーナス」
ギリシャ神話に登場する美の女神をモデルとしている。この彫刻は両手が紛失しており、今も本来の形はあきらかになっていない。ギリシャ彫刻の中期の作品によく見られるクラシック的な端正な顔立ち・体型と、後期の作品に見られるヘレニズム的な激しい体のねじれの二つの特徴を兼ね備えている。古代ギリシャ彫刻は長い間美の基準とされ、「ダビデ像」のミケランジェロにも強い影響を与えた。

「弥勒菩薩半跏像(宝冠弥勒)」
この作品は国宝彫刻の部第1号であり、またその姿がロダンの「考える人」を想起させることから、「東洋の詩人」の愛称をもつ。モデルである弥勒菩薩とはゴータマ・シッダッタの次にブッダとなることが約束された修行者で、シッダッタの入滅後56億7千万年後の未来に姿を現れて、多くの人々を救済するとされる。

「ダビデ像」
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロと共にルネサンス期の三大巨匠と謳われたミケランジェロの代表作である。ダビデが巨人ゴリアテとの戦いに臨む場面を力強く表現している。大きいサイズの彫刻はどうしても下から見上げると、頭が小さく見えてしまうため、意図的に頭部を大きくする美的調整が行われている。

「考える人」
思索にふける人物を描写した像として有名な作品である。作者であるロダンは19世紀を代表する彫刻家であり、『近代彫刻の父』と称される。ロダンは今までの基本であった古典や神話など型にはめられた表現を打ち破り、人間の内面をドラマチックに表現することを目指した彫刻家である。

4.本鑑賞の意義
 世界的に有名な彫刻、という誰にでも親しみやすいものをテーマとした。中学生程度ならば殆どの彫刻に見覚えがあるものと思われる。これは、あまりに自分との繋がりのないものだと興味を持って貰えないだろうという考えからである。中学生位の、あまり美術に親しみのない、見覚えはあるが詳しいことは知らない読者に興味を持って貰えるよう、わかりやすい切り口から比較・解説を行う。具体的な比較・鑑賞の例としては、各々の彫刻の表情から読み取れる感情の考察、それぞれの人体のデフォルメの程度、ポーズの意味、素材、目的、モチーフ、作り方の比較などが上げられる。見ただけでは分からない基本的な情報や鑑賞のヒントを解説として記述する。
 これら時代の異なる5つの有名彫刻を視覚的に比較することで、彫刻にはどんな素材や作り方、表現があるのかを知り、また、それぞれの作られた時代、モデル、背景、目的を知ることで彫刻美術の歴史への理解を深める。本鑑賞は詳しい学びに至る一段階前の学習であり、広くおおまかに彫刻美術の世界を把握することに意義がある。いわば入門のための学習であり、各々の時代の代表作を鑑賞することで、長い歴史を持つ彫刻美術の潮流の一端に触れ、興味を持って貰うことを目的としている。

<参考文献>
『西洋美術史』北澤洋子 武蔵野美術大学出版局 2006
『カラー版西洋美術史』高階秀爾 美術出版社 1990
『鑑賞のための西洋美術史入門』早坂優子 視覚デザイン研究所 2006
『魅惑の仏像 弥勒菩薩』山本敦 毎日新聞社 2000
『世界の彫刻1000の偉業』ジョセフ・マンカ 二玄社 2009


【オススメの参考図書】


鑑賞のための西洋美術史入門 (リトルキュレーターシリーズ)


課題1では教科書からの選択でしたが、課題2では完全に自由に選べますね。
得意分野が特になければ例によってこの本をパラパラ読んで決めるのが良いかと思います。
ある程度方向性が決まったら個別に情報収集していく流れになります。
世界の彫刻 1000の偉業」にはかなりの数の彫刻作品が掲載されているので、彫刻探したい方にオススメです。




posted by 水乃みのる at 15:01| 美術の歴史と鑑賞(ムサビ通信)

【MAU】美術の歴史と鑑賞【課題1】

美術の歴史と鑑賞 第1課題
「教科書に掲載されている作品のうち、中学生に鑑賞させたいと思う作品2点を選び、各々の作品の良さや特徴について説明するとともに、それらを選んだ理由を、2作品を比較鑑賞する視点から解説しなさい。」

レポートの参考にどうぞ。
全体的・部分的問わず、剽盗・転載はご遠慮ください。


 今回、中学生に鑑賞させたい作品として選んだのは菱川師宣の「見返り美人図」と、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールの「ポンパドゥール夫人の肖像」である。以下にそれぞれの特徴と詳細、またこの二作品を選んだ理由、その比較によって生まれる発見について解説する。

 「見返り美人図」は1693年頃、浮世絵の始祖である菱川師宣によって描かれた。浮世絵美人画の最高傑作などといわれる肉筆画である。縦63cm×横31.2cmの大きさで、東京国立博物館に所蔵されている。江戸時代、浮世絵は庶民の絵画として発展し、一大ブームとなった。当時庶民たちが好んだ題材は、憧れの遊女や人気の歌舞伎役者、日本全国の名所などで、この絵も吉原遊廓という江戸幕府によって公認された遊郭の周辺の遊女をモデルに描かれた立姿の美人図である。桜や菊の花輪を散らすあざやかな緋色の着衣が印象的で、軽やかな歩行の態を保ちつつふと後方を見返る姿に艶やかさを感じさせる。尻が下に大きく描かれ、異様に胴が長いという特徴を持つ。豊かな体型のおかげで、着物の美しさを存分に引き立たせている。髪は前髪と鬢の部分に分け、それぞれにゆるくねじり結わいて後ろに垂らし、ふり返る角度と髪、袖、吉弥結びの帯の動きにシャキッとした中に女性らしさが感じられる。見返る姿によって、玉結びにした髪、吉弥結びの帯、そして着物の丸模様という当時の流行を見せることにも主眼がおかれている。
 「ポンパドゥール夫人の肖像」は1775年頃、モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールによって描かれたパステル画である。彼は「パステルを顔の研究だけに、つまり、髪型や衣裳を顧みず、ただ表情を捉えることだけに眼を向けた画家」(*1)、「当時、パステル画を描かせたら右に出るものがないと言われた画家」(*2)などと評されている。作品のサイズは縦177cm×横130cmと、ほぼ等身大の大きさで、フランスのルーブル美術館に所蔵されている。この作品はロココ期の代表的な作品で、女性的な優美さ、官能性をもち、軽やかで装飾性が高いことを特徴とする。目を見張るほど細かく描写されたレースやドレスの柄にはその質感や温かみまで表現されている。この時代、フランス宮廷では女性の感性に合わせた極めて趣味的な要素の強い美術が生まれていた。描かれているポンパドゥール夫人はその美貌と聡明さでルイ15世の窮姫として宮廷に君臨した人物で、王の窮愛を一身に受けた夫人は、宮廷を取り巻くもの、絵画、彫刻、ファッション、装飾、家具など、ロココ美術の粋を集めて、豪華絢爛な世界をつくった。ルイ15世はその美貌を称えて「そなたはフランス一魅力的な女性だ」と言ったとされている。この時代の肖像画や肖像彫刻にはモデルの顔に一瞬の動きを与える微笑を好んで表現する傾向がある。夫人の横に置かれている書物やデッサンは彼女が芸術の擁護者だったことを表現している。ド・ラ・トゥールは、この作品を、青い紙を下地に、パステル用クレヨンだけを用い、グワッシュでわずかに補うことで仕上げた。本人を前にして制作したのは顔のみで、ここだけが別紙に描かれて貼り付けられている。
 私がこの二つの作品を選んだのは、いずれも女性をモデルに、美しさを表現することを目的としていながら、その表現が全く異質な点に面白さを感じたためである。この二つの作品は、いずれも「美人」を描いたものであり、また、その美しさを表現しようとする画家の努力が反映されている作品である。女性の一瞬の表情を描いたという共通点もある。ただし、両者の作品が持つ表現・描写方法は真逆と言ってもいいほどで、西洋と日本での美意識の違いがはっきりと表れている。輪郭線や影の有無、個性の表現といった基本的な西洋画・日本画で比較されやすいことがらの検証も可能ながら、細部に目をやれば、例えば、いずれの作品も人物の着衣に細かい柄の描写がされているが、「見返り美人図」は着た際に入るシワはあまり考慮されておらず、広げた状態で見える、本来の形に近い描写をしているのに対し、「ポンパドゥール夫人の肖像」はいくえにもシワが入り、やわらかな布の質感の表現が優先されていることがわかる。また、その作品のモデル・背景を考えると、「見返り美人図」は遊女という位の低い人物をモデルに選んでいるのに対し、「ポンパドゥール夫人の肖像」は、公妾ではあるものの、フランスの貴族社会、その中でも頂点の女性である。この正反対さは浮世絵が庶民の間を中心とする流行であったことや、フランスの貴族社会が非常に芸術に豊かな環境であったことに由縁する。

 この二作品を鑑賞し思考することは、単に絵を見て描かれ方の違いの発見や表現の美しさといった表面的な感動に留まらず、モデルや背景についても比較し発見し、考えることができる。以上の事柄から、多岐に渡る有意義な学習ができると考えた。

<参考文献>
(*1)「肖像表現の展開 ルーヴル美術館特別展」国立西洋美術館 朝日新聞社 1991
(*2)「美の旅人 フランスへ」伊集院静 小学館 2007
「ルーヴル美術館へ。」ペン編集部 阪急コミュニケーションズ 2009
「カラー版西洋美術史」高階秀爾 美術出版社 1990
「浮世絵美人解体新書」安村敏信 世界文化社 2013
「肉筆浮世絵 第二巻 師宣」堀内末男 集英社 1982


【オススメの参考図書】


カラー版 西洋美術史



カラー版 日本美術史


この課題はテーマさえ決まってしまえばそんなに難しいことはないかと思われます。
「同じテーマ」で「違う表現」をしている2作品を教科書から探しましょう。
水乃は国内⇔国外で描きましたが、古代⇔現代などでも良いかもしれませんね。
時代背景などを調べる時には上記2冊が便利です。

posted by 水乃みのる at 00:00| 美術の歴史と鑑賞(ムサビ通信)